TimescaleDBの時系列データにおけるネイティブパーティショニング・インデックスに対する優位性
Ethan Miller
Product Engineer · Leapcell

はじめに
データが爆発的に増加する現代において、IoT分析、金融取引、システム監視、スマートシティインフラなど、あらゆる分野で時系列データが不可欠となっています。この増え続けるタイムスタンプ付きイベントのストリームを効率的に保存・クエリすることは、データベースシステムにとって大きな課題です。多くの人にとって、堅牢で汎用性の高いリレーショナルデータベースであるPostgreSQLは自然な選択肢です。しかし、時系列ワークロードの要求に直面したとき、よくある疑問が生じます。オープンソース拡張機能であるTimescaleDBは、PostgreSQLのネイティブパーティショニングとインデックス処理機能を利用するよりも、時系列データに対して本当に優れているのでしょうか?この記事では、この疑問を徹底的に解明し、根本的なメカニズムと実際の影響を探求して、包括的な答えを提供することを目指します。
主要概念の説明
比較に入る前に、関係する主要概念について共通の理解を確立しましょう。
- 時系列データ: 時間によってインデックス付けされたデータポイントであり、通常は定期的な間隔で順次記録されます。例としては、センサーの読み取り値、株価、アプリケーションログなどがあります。
- パーティショニング: 大規模なテーブルをパーティションと呼ばれる、より小さく管理しやすい部分に分割するデータベース技術です。PostgreSQLでは、これは通常、範囲(例:日付や時間別)またはリストに基づいた宣言的パーティショニングを使用して行われます。これにより、データベースは関連するパーティションのみをスキャンできるようになり、クエリパフォーマンスが向上し、メンテナンスタスクが簡略化されます。
- インデックス: データベーステーブル上のデータ検索操作の速度を向上させるデータ構造です。時系列データでは、特定の時間範囲内のデータを迅速に見つけるために、タイムスタンプ列にB-treeインデックスが一般的に使用されます。
- TimescaleDB: PostgreSQLをスケーラブルで高性能な時系列データベースに変換する、オープンソースの拡張機能です。これは、テーブル(「ハイパーテーブル」と呼ばれる)を時間とオプションの空間次元で自動的にパーティショニングし、時系列ワークロードに特化した最適化を行うことで実現されます。
- ハイパーテーブル: TimescaleDBの中心的な抽象化です。ハイパーテーブルは通常のテーブルのように見えますが、実際にはTimescaleDBによって自動的に管理される個々のテーブル(「チャンク」と呼ばれる)の集合体です。
TimescaleDBの時系列データにおける優位性
TimescaleDBの根本的な原則は、自動パーティショニングメカニズムを中心に構築されています。ネイティブPostgreSQLでは宣言的パーティショニングが可能ですが、TimescaleDBはこの概念をさらに推し進め、時系列データに特化して最適化しています。
自動パーティショニングとチャンキング:
TimescaleDBでは、ハイパーテーブルを作成すると、時間(およびオプションで別の次元)に基づいて自動的にデータを「チャンク」にパーティショニングします。これは、ネイティブPostgreSQLでパーティション範囲を手動で定義・管理する必要があるのと対照的であり、データが無限に増大すると煩雑になる可能性があります。
タイムスタンプとデバイスIDを持つセンサーデータテーブル sensor_readings を考えてみましょう。
-- ネイティブPostgreSQLパーティショニング CREATE TABLE sensor_readings_parent ( time TIMESTAMPTZ NOT NULL, device_id INT NOT NULL, temperature DOUBLE PRECISION ) PARTITION BY RANGE (time); CREATE TABLE sensor_readings_2023_q1 PARTITION OF sensor_readings_parent FOR VALUES FROM ('2023-01-01 00:00:00+00') TO ('2023-04-01 00:00:00+00'); -- ...以下、四半期ごとに同様に続く
TimescaleDBを使用すると、プロセスははるかに簡単になります。
-- TimescaleDBハイパーテーブル CREATE TABLE sensor_readings ( time TIMESTAMPTZ NOT NULL, device_id INT NOT NULL, temperature DOUBLE PRECISION ); SELECT create_hypertable('sensor_readings', 'time');
TimescaleDBは、設定に基づいて(例えば、毎日、毎週、または毎月)時間ベースの間隔でデータを分割するチャンクを自動的に作成・管理します。この自動化は、運用オーバーヘッドを大幅に削減します。
最適化されたインデックスとクエリパフォーマンス:
TimescaleDBは、時系列クエリのためにインデックスを最適化します。データがパーティショニングされると、各チャンクにインデックスが作成されます。TimescaleDBのクエリプランナーはこれらのチャンクを認識しており、無関係なチャンクを効率的に除外できるため、特に時間範囲クエリで大幅なパフォーマンス向上が得られます。
さらに、TimescaleDBは継続的集計やダウンサンプリングポリシーなどの高度な機能を提供します。継続的集計はマテリアライズドビューであり、段階的に更新されるため、すべてを再処理することなく履歴データのリアルタイム集計が可能になります。
-- TimescaleDBにおける継続的集計の例 CREATE MATERIALIZED VIEW daily_avg_temp WITH (timescaledb.continuous = true) AS SELECT time_bucket('1 day', time) AS bucket, device_id, AVG(temperature) AS avg_temp FROM sensor_readings GROUP BY 1, 2; -- このビューは新しいデータが到着すると自動的に更新され、 -- 日次平均の高速クエリを提供します。
これは、ネイティブPostgreSQLとは根本的に異なり、手動で同様のメカニズムを実装する必要があり、多くの場合、集計データを維持するために複雑なトリガーやスケジュールされたジョブが必要になります。
圧縮:
TimescaleDBの際立った機能の1つは、履歴データのための列指向圧縮です。時系列データは、繰り返しパターンや単調増加する値を含むことが多いため、特殊な圧縮アルゴリズムを備えた列指向ストレージは、ディスク容量の使用量を劇的に削減し、分析クエリのクエリパフォーマンスを向上させることができます。
-- ハイパーテーブルで圧縮を有効にする ALTER TABLE sensor_readings SET (timescaledb.compress, timescaledb.compress_segmentby='device_id'); SELECT add_compression_policy('sensor_readings', INTERVAL '7 days');
このポリシーは、7日よりも古いチャンクを圧縮するようにTimescaleDBに指示し、圧縮されたデータを device_id でセグメント化します。ネイティブPostgreSQLは、テーブルデータに対して統合された列指向圧縮を提供していません。サードパーティツールを使用したり、カスタムソリューションを実装したりすることは可能ですが、TimescaleDBが提供するようなシームレスな統合はありません。
データ保持ポリシー:
TimescaleDBでは、古いデータを自動的に削除するためのポリシーを定義できます。これは、時系列データセットの際限のない成長を管理するために不可欠です。
-- 30日よりも古いデータを削除するデータ保持ポリシーを追加する SELECT add_retention_policy('sensor_readings', INTERVAL '30 days');
この自動クリーンアップは、ネイティブPostgreSQLで手動でデータ削除を管理するよりも大きな利点であり、大規模なパーティションテーブルにとっては、リソースを大量に消費し、エラーを起こしやすい作業となります。
スケーラビリティと水平シャーディング:
ネイティブPostgreSQLは垂直スケーリング(CPU、RAM、ストレージの増加)が可能である一方、TimescaleDBはマルチノード機能を通じて水平スケーラビリティを提供します(ただし、これはエンタープライズ機能です)。これにより、複数のPostgreSQLインスタンスにデータとクエリを分散させることができ、真に大規模な時系列デプロイメントのニーズに対応できます。
結論
ネイティブPostgreSQLのパーティショニングとインデックス処理は、時系列データを管理するための堅固な基盤を提供しますが、拡張機能としてのTimescaleDBは、その機能を大幅に強化します。重要な運用タスクを自動化し、クエリパフォーマンスを最適化し、時系列ワークロードに最適化された圧縮や継続的集計などの高度な機能を提供します。時系列データの量が増加し、複雑な分析要件を持つアプリケーションにとって、TimescaleDBは、PostgreSQLのネイティブ機能のみに依存するよりも、間違いなく、より堅牢で、スケーラブルで、運用効率の高いソリューションを提供します。

